人生至るところ追分あり

 人生とは人の一生である。至るところ山河あり。また山あるところ谷がある。立体的のみならず、平面的でもある。
 山があろうと谷があろうと、立体的であろうと平面的であろうと、過ぎてみれば夢、幻のごとしである。 


 「追分」とは道が二つに分かれたところを言う。オギャーと産まれて70有余年、自分の歩む方向を自分で選べるようになってからは、「追分」にさしかかる度にどちらかの道を選んできた結果が、今の自分なのである。ゲームのようにリセットできないところが人生なのです。リセットして生まれ変れたとして、都合よく20才の頃に戻れるなんてことはまずあり得ないわけだ。あの時、別の道を歩んだらどうなっていただろうと想像を逞しくすることもまた楽しからんやだ。

 人生を歩んでくると、ふと道が途切れて断崖絶壁が目の前に現れる瞬間がある。これもまた一種追分である。道は二つだ。飛び降りるか、引き返して別の道を探すかだが、引き返した途中で交通事故で死ぬかもしれない。

「われ事に於いて後悔せず」とは宮本武蔵の銘だが、凡人のわしの場合は「人生は後悔の連続だ」である。
 かくのごとく「追分」は奥が深いのである。この「追分」、古くは「送分」とも記されたが、要は牛馬を追い分けるところからきたようだ。
 「追分」は、古くより地名や駅名、そして唄として残っている。代表的なものを拾ってみましょう。

 

『地名』 (以下、Wiki
東北地方
桑折追分 : 奥州街道羽州街道の分岐。福島県伊達郡桑折町谷地字追分と現在でも地名として残っており、明治初年までこの追分に右陸前街道、左羽前街道と刻んだ石の道標があったという。
関東地方
幸手追分 : 日光街道奥州街道日光御成街道の分岐に儲けられた宿場。現在の埼玉県幸手市
新宿追分 : 甲州街道から青梅街道の分岐。内藤新宿の西端。現在の東京都新宿区。
本郷追分 : 中山道日光御成街道の分岐。現在の東大農学部正門前(東京都文京区)で、近くに本郷追分停留所がある。ここ付近は現在、中山道国道17号本郷通り・通称なし)、日光御成街道の単独区間は東京都道455号本郷赤羽線本郷通り)となっている。
平尾追分 : 中山道と川越街道の分岐。現在の板橋郵便局前交差点。現在、ここ付近は中山道板橋区道(旧中山道)、川越街道の単独区間国道17号中山道)となっている。
中部地方
永平寺追分 : 勝山街道と永平寺道との分岐。現在の福井県福井市
信濃追分 : 中山道と北国街道(北国脇往還)の分岐に設けられた宿場。現在の長野県北佐久郡軽井沢町

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(分去れ)さらしなは右 みよしのは左にて 月と花とを追分の宿


安曇追分 : 千国街道の池田通りと松川通りの分岐。現在の長野県安曇野市
垂井追分 : 中山道美濃路との分岐。現在の岐阜県不破郡垂井町
楽田追分 : 犬山街道(稲置街道)と上街道 (木曽街道)との分岐。現在の愛知県犬山市。かつて名鉄小牧線の駅(追分駅 → 楽田原駅)があった。
近畿地方
日永追分 : 東海道と伊勢街道の分岐。現在の三重県四日市市
草津追分 : 東海道中山道の分岐に設けられた宿場。現在の滋賀県草津市

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        歌川広重『木曾街道69次の内 草津追分』

髭茶屋追分 : 東海道大津街道伏見街道)の分岐。現在の滋賀県大津市
神岡追分 : 因幡街道と出雲街道の分岐。兵庫県たつの市神岡町追分として名を残す。
中国・四国地方
美作追分 : 出雲街道と津山備中松山往来(備中往来)の分岐。岡山県津山市真庭市の境に位置し、JR姫新線美作追分駅中国自動車道美作追分パーキングエリアで名を残す。
笠岡追分 : 東城往来(雲州街道)と松山往来(作州街道)の分岐。岡山県笠岡市の笠岡と小平井にまたがる一集落地区名、岡山県道34号笠岡井原線岡山県道48号笠岡美星線が分岐する交差点名、井笠バスカンパニーバス停留所名として名を残す。
西霞追分 : 尾道街道(鴨方往来)と鞆街道(鞆津往来)の分岐。現在の広島県福山市霞町。
海外
台中追分 : 海岸線と成追線の分岐。現在の台湾台中市大肚区
南投追分 : 台14線の分岐。現在の台湾南投県仁愛郷翠峰。
台東追分 : 知本越嶺道の分岐。現在の台湾台東県卑南郷。
追分(太平山) : 現在の台湾宜蘭県大同郷。

  台湾の追分は日本統治時代の命名であろう。

 

『駅名』
追分駅
追分駅 (北海道) - 北海道勇払郡安平町にあるJR北海道室蘭本線・石勝線の駅。
追分駅 (秋田県) - 秋田県秋田市にあるJR東日本奥羽本線男鹿線の駅。
追分駅 (滋賀県) - 滋賀県大津市にある京阪京津線の駅。
追分駅 (三重県) - 三重県四日市市にある四日市あすなろう鉄道内部線の駅。
追分駅 (台中市) - 台湾台中市大肚区にある台湾鉄路管理局西部幹線(海岸線、成追線)

        の駅。
その他
安曇追分 - 長野県安曇野市にあるJR東日本大糸線の駅。
信濃追分駅 - 長野県北佐久郡軽井沢町にあるしなの鉄道線の駅。

      1909年(明治42年)6月25日 - 国有鉄道の追分仮停車場として開業。

      1923年(大正12年)10月1日 - 信越本線信濃追分駅となる。
美作追分駅 - 岡山県真庭市にあるJR西日本姫新線の駅。
追分口駅 - 福井県福井市にあるえちぜん鉄道勝山永平寺線の駅。
東追分信号場 - 北海道勇払郡安平町にあるJR北海道石勝線の信号場。旧東追分駅
廃止された駅
旭川追分駅 - 北海道旭川市にあった旭川電気軌道東川線の駅。
石狩追分駅 - 北海道雨竜郡雨竜町にあった日本国有鉄道札沼線の駅。
追分駅 (静岡市) - 静岡県静岡市にあった静岡電気鉄道静岡清水線の駅。
追分駅 (浜松市) - 静岡県浜松市にあった遠州鉄道奥山線の駅。
追分停留場 - 群馬県高崎市にあった東武高崎線の停留場。
改称された駅
新宿追分駅 - 東京都四谷区にあった京王電気軌道の京王新宿駅の旧称。
追分駅 (神奈川県) - 神奈川県伊勢原市にある大山観光電鉄大山鋼索線大山ケーブル駅

         の旧称。
追分駅 (山梨県) - 山梨県南巨摩郡富士川町にあった山梨交通電車線の甲斐青柳駅の旧

        称。
追分駅 (愛知県東春日井郡) - 愛知県瀬戸市にある名古屋鉄道瀬戸線瀬戸市役所前駅

             旧称。
追分駅 (愛知県丹羽郡) - 愛知県犬山市にあった名古屋鉄道小牧線の楽田原駅の旧称。
追分駅 (中国) - 中華人民共和国黒竜江省にある中国鉄路総公司図佳線の申家店駅の旧

       称。
          
追分節 
江差追分(北海道)
松前追分(北海道)
宮城追分(宮城)
秋田追分(秋田)
本庄追分(秋田)
昔追分(秋田)
酒田追分(山形)
越後追分(新潟)
片品追分(群馬)
河口湖追分(山梨)
奈良田追分(山梨)
五箇山追分(富山)
信濃追分(長野)
親澤追分(長野)
隠岐追分(島根)
舟追分(島根)
初瀬追分(奈良)

 

 先日、国木田独歩『たき火』という小品の中に、次の文章を見つけました。
 《落葉を浮かべて、ゆるやかに流るるこの沼川を、漕ぎ上る舟、知らずいずれの時か心地よき追分の節おもしろくこの舟より響きわたりて霜夜の前ぶれをか為しつる。あらず、あらず、ただ見るいつもいつも、物いわぬ、笑わざる、歌わざる漢子の、農夫とも漁人とも見分けがたきが淋しげに櫓あやつるのみ。》

 逗子の田越川(御最後川)での情景を描写したものであるが、この「追分の節」とはどんな節であったのだろう。独歩に訊いてみたいものだ。