三坂馬子唄


 愛媛県中部、久万高原の久万盆地にある上浮穴(かみうけな)久万町は、土佐街道

沿う旧宿場町であり、木材の町としても知られている。江戸時代から、木材は馬車に積

まれて松山に運ばれた。この道中に三坂峠があり、この三坂峠は「三坂三里は五里ござ

る」という悝謠が伝わっているほど久万街道最大の難所であったところで、久万産の木

材を馬に乗せ松山城下に向かい、生活物資を代わりに戻ってくる往復に一昼夜かかり、

その道中の行き帰りに唄われたのが「三坂馬子唄」なのです。


 西日本ではいわゆる「馬子唄」はそれほど多くない中で、これは西物の馬子唄の中で

は大変美しいメロディのものではあります。


♪ むごいもんぞや 久万山馬子は 三坂夜出て 夜戻る


などは、三坂峠がいかに難所であったかが偲ばれるものであり、三坂峠を越え松山城

まで、片道八里の道のりを一昼夜かけて、物資運搬をしていた久万山馬子たちの過酷な

労働の中から生まれた、なんとも切ない唄です。

 

(ハイハイ)三坂越えすりゃ(ハイ)雪降りかかる(ハイ) 戻りゃ妻子が(ハイ)
 泣きかかる(ハイハイ)

 

♪ わしも若い時ゃ城下まで通うた 高井の川原で夜が明けた


♪ わしも若い時ゃ久万まで通うた 三坂峠で夜が明けた


♪ わしが若い時ゃ小田まで通うた 小田の河原で夜が明けた

 

♪ 馬も辛かろ馬子衆も辛い 久万の三坂を後に見て


♪ 馬子も辛かろ峠にかかりゃ 月の明かりと鈴頼り

 

♪ むごいもんぞや久万山馬子は 三坂夜出て夜戻る


♪ むごいもんぞな明神馬子は 三坂夜出て夜戻る

 

♪ 馬よ歩けよ沓買うて履かそ 戻りゃ唐黍とうきび煮て食わそ


♪ 馬よ歩けよ沓買うて履かそ 二足五文の安沓を

 

♪ 三坂峠を手綱をせなに 越えりゃ松山近くなる

 

♪ 急げ栗毛よもう日が暮れる 戻る山道 辛くなる

 

♪ 遠い山道鈴の音するが あれは荏原の兼さんか